
「江戸城総攻」
真山青果:作、鈴木龍男:改訂・演出
「左の腕」
−無宿人別帳ー
松本清張:原作、平田兼三:脚色、津上忠:演出
前進座は毎年5月国立劇場で公演するのが恒例となっている。今回は真山青果の歴史大作「江戸城総攻」「慶喜命乞」「将軍江戸を去る」の三部作を一本にした「江戸城総攻」と松本清張の生誕百年と中村梅之助舞台生活七十周年を記念した「左の腕」の硬、軟バランスのとれた演目が話題を呼んでいる。
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「江戸城総攻」
慶應4年3月6日(旧暦)(1836)。勝麟太郎(瀬川菊之丞)の屋敷内。鳥羽・伏見の戦いで幕府軍を破った官軍は、ジリジリと東上、主力は駿府まで来ていて江戸へ一気になだれ込もうとしていた。
江戸城総攻めは3月15日だ。もし官軍に攻め込まれたら江戸は火の海になってしまうのだろうか?そして江戸市民はどうなる?運命のXデーは刻々と迫っている。
この屋敷には西郷吉之助(藤川矢之輔)の腹心、益満休之助(益城宏)が寄宿している。そこへ乗り込んできたのは月代も髭もぼうぼうの山岡鉄太郎(嵐広也)で、麟太郎の名前を借りて西郷に会い、将軍慶喜の命乞いをしたいから書状を書いてほしいというものだった。
立ち聞きしていた益満も賛同、二人揃って駿府の西郷のもとへ決死の思いで旅立った。
数日経った駿府の西郷がいる詰め所。ここには中村半次郎((中嶋宏幸)、村田新八(松浦豊和)らが詰めている。そこへいくつもの陣営を突破してきた山岡と益満。
“命乞い”の難題を持ち込まれた西郷は頭を抱え、もし幕府軍が外国に援助をしてもらうことになったらインドや清国みたいに干渉されてしまう。それでもいいのかと談判された西郷は、最後の決断をする。
江戸城無血開城を納得した西郷は五ヶ条の条件を出した。その一つに「慶喜一人を備前藩に預ける」という条項があった。これを知った山岡は「命を差し出すに等しい」とこの条件を蹴ってしまった、、、。
明日総攻撃の芝にある島津邸、沖には幕府の軍艦七隻が待機している。西郷はいきり立つ部下をよそ目に、戦火が江戸市中に及べは町民はどうなると考えていたが、そこへ勝麟太郎がきた。二人は四年ぶりの再会だが親しい阪本竜馬は二ヶ月前この世を去っていた。
談判は江戸城の処分、慶喜の命、和宮の処遇など一気に進み「明日の城攻めは取り止め」を決断、伝令を緒隊に走らせ危機一髪で戦火は免れた。
上野の大慈院に十五代将軍慶喜は恭順謹慎して読書中だが、髭は伸び憔悴しきっている。そこへご機嫌伺いに高橋伊勢守(武井茂)が訪ねて来る。公のところには外国の力を借りたらどうだと言う献策もあったが、それを却下したという。
その時誤った情報を聞いた山岡が駆けつけ「全ての権力も奉還することが勤王の大義だ」と泣きながら訴えるのだった。
翌日朝早く江戸のはずれ千住大橋の袂。これから慶喜は出生地の水戸へ旅経つのだ。ここへ山岡が最後の別れに駆けつけ大地に両手をつき別れを惜しむのだった。
慶喜は別れ際に「江戸の地よ、江戸の人よ、さらば、、、」と言い残すがどのような想いが去来したのだろうか、、、。
幕府の崩壊で、江戸の街が火の海になる直前、西郷吉之助と勝麟太郎の尽力で食い止めた話は、あまりにも有名だが、史実を正確に裏打ちした真山青果の作品を前進座が総力をあげて取り組んだだけに見応えがある作品だ。
西郷の矢之輔の豪快ながら人びとへの優しさ、菊之丞のさらりとした江戸っ子・勝がこのドラマに溶け込んでいた。
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「左の腕」−無宿人別帳ー
松本清張の傑作で前進座の財産でもある世話狂言で梅之助の父、翫右衛門が初演。梅之助舞台生活七十年にふさわしい演目だ。
参詣人で賑わう亀戸天神の境内。境内ではほおずきや(志村智雄)、三番叟売り(津田恵一)、しゃぼん玉や(山崎辰三郎)、甘酒屋(西川かずこ)らが、手振り真似ぶりで客を誘っている。
こんな中で年寄りの飴売りの卯助(梅之助)も、子供相手の飴を売っていた。卯助は先に女房を亡くし、いまは一人娘のおきみ(上沢美咲)と二人暮らしだ。
おきみは器量良しで料理茶屋・松葉屋に奉公しているが、働き者でみんなに可愛がられている。同じ店の板前・銀次(高橋佑一郎)とも惚れ合っている仲だ。
松葉屋の女主人・おあさ(河原崎國太郎)の供で天神さんへ来ると二人は卯吉をおあさにひき合わせた。そんなときにわか雨が降り出し、境内の甘酒屋へ卯吉ともどもあがったが、このあたりを縄張りにしている岡っ引き・いなりの麻吉(武井茂)に、卯吉は目をつけられていた。
おあさは卯吉の飴売りやを辞めさせ松葉屋で働かすことになったが、麻吉は卯吉から目を離さない。それは卯吉がいつも左の腕を布で隠して、暑い時でもはずさないのだ。
それに麻吉は、おきみを俺の妾にしろと脅すと卯吉は、金で娘は売らないとつっぱねる。それでは「“左の腕”を見せろ!」と十手をかさに言い寄ると、ついに卯吉は娘にも見せたことがない左の腕から布をはずす。
その腕にはくっきり入れ墨が彫られていた。それは並みの罪人ではなく長門無宿の入れ墨だったのだ、、、。
松葉屋に四人組の強盗が押し入り、二階で博打をうっている旦那衆と居合わせた麻吉まで縛りあげられ、さらにおあさまで頭の熊五郎(山崎竜之介)に短刀を突きつけられたときあらわれたのが卯吉。
大立ち廻りになり熊五郎が卯吉を認めると突然「蜈蚣(むかで)の兄い!」とどなった。卯吉はかつての熊五郎の兄貴分だった、、、。
卯吉の役はやはり梅之助らしい演技が冴える。入れ墨者のハンデを背負いながら、娘への情愛の細やかさと熊五郎と大立ち廻りの凄みが素晴らしい。このところ続けて大病を患った梅之助の舞台復帰を供に祝いたい。また次作出演にもおおいに期待したい。
「左の腕」 左から國太郎 上沢美咲 梅之助


国立劇場
前進座
嵐圭史、藤川矢之輔、瀬川菊之丞、嵐広也、ほか(江戸城総攻)
中村梅之助、武井茂、河原崎國太郎、上沢美咲、高橋佑一郎、ほか(左の腕)

5月22日まで
0422-49-2811