
11月7日まで



三越劇場
若獅子
藤沢周平劇場
03-3356-9875
「山桜」
笠原章/脚本・演出
出演
笠原章、仁科亜紀子、桂広行、森田優一、中條響子、御影伸介、
光本幸子、さとう未知子、水野善之、南條瑞江、ほか
11月10日 鶴岡市文化会館

劇団若獅子は「藤沢周平劇場」と銘うって、藤沢周平の短編小説から「山桜」と「時雨みち」の二作を仁科亜紀子、光本幸子、河東甫をゲストに迎え「あの時、あの人と、あの道を歩いていけばよかった」と男と女がそれぞれ歩んで来た道を振り返った時、胸中を横切る思いを舞台化した作品。あなたもふと自分の事を思い出すかもしれない。
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江戸時代後期、北国の小国海坂藩。浦井野江(仁科亜紀子)は、前夫が若くして亡くなって実家に帰っていたが、乞われて磯村庄左衛門の嫁となった。
実家は父の浦井七左衛門(御影伸介)は郡奉行を努め百二十石取りの家柄だった。婚家の磯村家は六十五石しかなく義父・光太夫(桂広行)と姑・みね(中條響子)は、武士なのに家中の者や商人に高利で金を貸し、義父はこっそり女を囲っている。
野江は早く磯村の嫁になろうと努力するが、舅、姑、更に夫まで辛く当たり、野江にとってここは安住の家ではない。気の休まる時がない日が続いたある日、野江は若くして亡くなった叔母の墓参の帰りにうす紅色の山桜を見て、手折ってみようとしたが、手が届かない。
野江は気が付かなかったが若い侍が「手折って進ぜよう、、」と声を掛けてきた。声の方を振り向くとその武士は手塚弥一郎(笠原章)といい、野江が磯村へ嫁ぐ前に熱心に求婚をしてきた男だった。
彼は去水流免許皆伝の腕だという。それを聞いて野江は粗暴な男だと早合点して縁談を断ってしまったのだった。あの時、よく調べれば良かったのに、、、。
その頃、ここの藩は旱魃や冷害がうち続き、百姓は年貢どころか自分たちも食べるものに困り娘を売る始末。さらに組頭で、領主とも繋がっている諏訪平右衛門(水野善之)は私服を肥やすための圧政を続けていた。
藩政改革に立ち上がった家中の者が、弥一郎に改革グループに入ってくてと頼むが、弥一郎の父もかつて改革の犠牲になって切腹したので一度は断ったが、持って生まれた正義感から彼らの仲間に加わり、腕の立つ弥一郎は、平右衛門を討倒した。そして自分がやったと大目付に名乗って出た。
この弥一郎の義挙にせせら笑う舅と夫の態度を見た野江は、怒って家を飛出し実家へ帰ってしまった。
春が来て野江は山桜の一枝を持参、弥一郎の母・よしの(南條瑞江)を訪ねた。それは暖かく、優しい人柄で、回り道をしたが、この家こそ自分が嫁いで来る家だったのだと心底思うのだった。
笠原の凜とした立ち居振る舞い、仁科の目一杯に婚家に溶け込もうとする姿が印象的だ。
「時雨みち」
笠原章、光本幸子、仁科亜紀子、河東甫、中條響子、根本亜季絵、
水野善之、南條瑞江、高橋浩二郎、ほか
出演
この物語は、「山桜」の武士の世界を描いたものから町人の世界へと視点を変えた作品で、江戸時代の市民生活や生き方はどんなものだったか、現代と比較して見るのも楽しいだろう。
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太物(綿織物、麻織物のこと)卸の老舗、機屋(はたや)は、芝明神あたりにあって誰でもが良く知っている店。助次郎(笠原章)は、先代に見込まれ婿入りして新右衛門の名前を継ぎここの主人になった。
手堅い商いで商売の方はいうことがなかったが、いかんせん家付きの女房・おその(仁科亜紀子)は、役者狂いでしょっちゅう家を空け、それが当たり前のように振る舞うから当然夫婦仲はぎくしゃくして、家にはすきま風がピューピューだ。
あげくに蝶よ、花よと育ててきた一人娘のおふみ(根本亜季絵)は、働くことしか頭になく面白味もない父親を馬鹿にしている。
新右衛門としては、聟として弱みがあったのだろうか、、、。命がけで店を守り、家族に良い生活をさせようと働いてきたのに娘にも裏切られ、彼には人に言えない悩みがあった。
こんな真面目で堅物だと世間には見られてきたが、実は新右衛門には他人にはとても言えない過去があったのだ。
ある日、昔の奉公人仲間で、いまは機屋から太物を安く融通してもらい行商で細々と暮らしている市助(河東甫)が、金の無心にやって来た。
市助が世間話をしているうちに、先日町中でばったり「おひさ(光本幸子)んに会った。いまはお松と言う名前で裾継(江戸深川の遊郭の一つ)で安女郎をしている、、、」と。
新右衛門は“おひさ”の名前を聞いてどきっとした。というのは二十年前、二人は恋仲になり、おひさは身ごもったが、機屋への婿入りが決まったので、堕胎をさせ捨ててしまった。
自分の出世のためにその後、おひさが落ちぶれている身の上に、身が詰まり新右衛門は深川の遊郭におひさを訪ねた、、、。
そこで彼が見たおひさは、かつてのういういしさはなく酒に身も心もぼろぼろになっていた。新右衛門はせめてもの罪滅ぼしに二十両の金を渡そうとしたが、よほど腹に据えかねていたのだろう彼女は金を座敷にばらまいて受け取ろうとはしない。
あらためて別の日に再度新右衛門が、おひさのところへ行くともう彼女はいず小さな荷物と人形を抱きしめ姿を消したと遣り手のお杉(南條瑞江)が気の毒そうにしゃべった。
冷たい時雨に打たれながら寒々しい家へ帰る新右衛門。もしあの時、あの女と一緒になっていたら、、、。その胸中は、、、。
この作品では、かつて新派で活躍した光本の得意な演目で、男に捨てられ酒に溺れ酔態を見せるおひさ(お松)、何人も男に接し、安女郎に成り下がっても本当に好きだった男への恨み、辛みが身体中からにじみ出て来る。長年の芸の蓄積なのだろうか。
一方、好きな女を捨て大家の聟になった男・新右衛門役の笠原は「山桜」の武士役で、正義感が強い爽やかさをみせたが、ここではガラリとかわり身勝手な男。演じ分ける力を評価したい。