藤沢周平  
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劇場
海鳴り

サザンシアター   

民芸  

脚本

吉永仁郎   

高橋清祐     

西川明、日色ともゑ、塩屋洋子、伊藤聡、梅野泰靖、内藤安彦、
みやざこ夏穂、 花村さやか、新澤泉、伊東理昭、田口清一、安田正利、ほか  

10月20日まで  

044-987-7711 (日)休    

22日 福井 市文化会館、23日 京都 府立芸術会館、24日 大阪 エル・シアター、
26日 美濃加茂 市文化会館、27日 大垣 スイトピアセンター  

左 日色ともゑ、右 西川明 

「海鳴り」とは、台風や、津波で運ばれたうねりが、海岸で砕ける時空気を巻き込んで起る轟音で遠く内陸部にまで伝わり、不吉の前哨として昔から恐れられてきた。

藤沢周平の作品でも少し毛色の違った江戸後期の紙問屋と、その周辺に生きる中流の人びとを描き、何か不吉な事が起る物語を「海鳴り」が暗示している。

              

時は江戸時代後期、最も繁栄した文化、文政の頃、日本橋に下積みから紙問屋(当時誰でもが問屋にはなれなかった)の四十半ばを過ぎた小野屋新兵衛(西川明)がいた。

一生懸命働き商売も順調だったが、身体に衰えが見えだした。妻のおたき(塩屋洋子)は派手で、遊びが大好き、家もよく空ける女で、夫婦間にはすきま風が吹き、男、女のこどもたちともしっくりいっていなかった。

ある日問屋の寄り合いの終わりに酒宴があった帰り、同業者の丸子屋・由之助(伊東聡)の妻・おこう(日色ともゑ)が、破産寸前の山科屋(田口精一)に無理に飲まされた酒で、帰り道で気持ち悪くなり、道端に倒れてしまった。

そこへあとから通りがかった新兵衛が助け起こし、近くのあいまい屋で、気分が良くなるまで介抱してやった。おこうを付け狙っていた山科屋は、帰る二人を見つけ新兵衛に二人の仲をばらすと強請だした。

「五十両出せば黙って見過ごす、、、」と言う条件を飲んだ新兵衛は、やむなくおこうにも強請られたことを言わず金を払った。これで済んだと思った新兵衛だが、色と欲に飢えた山科屋はこれで納得したわけではなかった。

紙の世界も化政期になると、これまで上方から入ってきた紙だけでは間に合わず、中級紙を江戸近在でも製造するようになり、漉き手→仲買→問屋の制度が出来上がり47軒の問屋が、700軒の漉き手の取り分や仲買人を通さず直接取引をもくろみ始めた。

これに反対したのが新兵衛で、仲買人の兼蔵(梅野泰靖)から漉き手の窮状を聞いていたからだった。新兵衛とおこうの出会いは、その談合があった帰りのことだった。

それからの新兵衛とおこうはついに一線を越えてしまい、当時不義密通の果ては獄門台が待っているという重罪を知りながら初めて目覚めた中年男女は逢瀬を重ねた。

だが蛇みたいな山科屋にまたも感づかれ、今度は200両とふっかけられ、おこうの亭主も知らぬ半兵衛を決め込んだ。もはや新兵衛とおこうは江戸には居場所がない、、、。

つてを頼って「海鳴り」が轟く海岸を、二人は寄り添って北へ向かった。

なんと爽やかで、なんと純粋な愛なんだろう。観ているうちに「早く逃げろ。幸せになれよ、、、」と応援したくなった。

新兵衛役の西川明は、民藝の6、7月公演、アーサーミラー作「プライスー代償−」で、定年間際の実直な警官・ビクターを演じて好評だった。今回はまげ物で、中年のロマンスをじっくり見せる。日色ともゑは、ひょんなことから新兵衛に惚れ込んでしまうが、娘の初恋みたいに初々しさがいっぱいで楽しい。

これに紙仲買人・兼蔵の梅野泰靖、小野屋番頭・喜八の内藤安彦らベテランの共演が奥行きの深い作品に仕上げている。