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劇場
東京原子核クラブ

俳優座劇場   

俳優座劇場プロデュース

マキノノゾミ

宮田慶子   

田中壮太郎、石井揮之、若杉宏二、小飯塚貴世江、西山水木、 
田中美央、二瓶鮫一、壇臣幸、佐川和正、渡辺聡、外山誠二、佐藤滋   

9月7日まで  

03-3470-2880  

左から田中壮太郎、佐川和正、壇臣幸

撮影:落合高仁

この前の戦争末期に、広島、長崎は原爆の投下で、一瞬で廃墟になり、これで終戦が早まったが、当時日本でも核開発の研究をしていて、もし豊富な資金とウラン鉱石が手に入っていたら原爆を作ったかも知れない。戦前は理化学研究所(理研)が、原子物理学研究のメッカだった。

              

さてこのドラマは昭和7年、東京本郷にある二階建ての下宿屋「平和館」が舞台。六義園近くにある理研に勤める若い物理学者・友田晋一郎(田中壮太郎)は、故郷の京都へ帰る支度をしていた。

理研に入ったがあまりにも研究レベルが高いので、自分の能力の低さにガックリして、京都へ帰って「先生でもしよう」と今日が東京最後の日だった。

すると同じ下宿人でレビュウで踊っていた富佐子(西山水木)も荷物をまとめて出て行こうとした。なんでも、若い踊り子に人気を取られクビになってしまったとか、、、。

そんな時、同僚の武山(田中美央)<彼も同宿人>が帰って来て、友田が提唱した物理学の仮説が、うるさい主任の西田(外山誠二)に認められたという朗報を持ってきた。この話に喚起され友田は、研究所に残ることを決意した。

ほかのメンバーを紹介しよう。友田の同僚の小森(佐川和正)で、友田の良き理解者。武山はインチキ合成酒<これが不味いのなんの>を理研から調達、みんなにふるまう酒豪、ダンスホールのピアノ弾きで自室にもピアノを置いてある早坂(若杉宏二)、彼は博打大好き人間で、溜まった下宿代は勝った金で支払う、ただいつも勝つとは限らない。

左翼かぶれで、娯楽劇なぞ蔑視する新劇青年・谷川(壇臣幸)、野球がメシより好きな東大野球部員・橋場(石井琿之)、彼はあとでややこしい事件を巻き起こす、、、。

彼らの殺生与奪を握り、食事がメザシになるかライスカレーかを決めるのが、平和館の一人娘・桐子(小飯塚貴世江)、住人は彼女に頭が上がらない。

それに東大の野球には、朝から応援に駆けつける人の良い平和館のおやじ・彦次郎(二瓶鮫一)。忘れていたこれを紹介しないと噛みつかれる。番犬のガロワ<フランスの数学者の名前>。気に入らないとガブリとやられる。

             

その後友田は毎日熱心の理研で研究に取り組んでいたが、平和館のメンバーの動きを見ると。演劇青年の谷川が落ち込んでいる。新劇はいまでもそうだが金のやりくりが大変だが、彼の劇団経理者が金を持ち逃げしてしまい、ヤケ酒をあおる。

田舎へ帰ると言っていた富佐子は、モダンガールの衣裳で自室から出てくる。外から迎えの車のクラクションが鳴る。彼女は横須賀の造船王と結婚するそうだ、、、。後からいろいろ“変身”して登場するのも笑いを誘う。

そんな折り、平和館へ海軍の制服を着、短剣を吊るした将校がやって来た。例の合成酒を調達して来る武山の友人で海軍技術中尉の狩野(渡辺聡)だ。

彼は偶然だが桐子の見合いの相手だったが、ほかの重要な用件で友田を訪ねて来たのだ。それは「原爆は作れないか、、、」という恐ろしい内容だ。そして桐子の結婚話はオジャンになった。

またある日、今度は友田が落ち込んで、ぼーっとしていた。というのは彼が書いた原子物理の論文を師の西田に提出していたが、忘れられていて外国人の学者に同じ論文を発表されてしまったのだ。ガックリ。また武山の酒でみんなになぐさめられていた。

外のガロワのうなり声が大きい。玄関に飛込んできたのが西田だ。友田に謝りにきたのだが、どうもガロワと相性が悪いとみえて、足をガブリとやられてしまった。

結婚に失敗した富佐子が舞い戻り、今度は尼さんになり免罪符を安くみんなに売りつけだした。平和館はこれだけでは納まらない。

平和館主人の彦次郎も橋場が出場する東大ー早大戦に応援に行ったが、なんと東大が早大を破ったとビックニュースになった。その殊勲甲は橋場がつくった。でもこの報道のおかげで、橋場はニセの東大生だったことがバレて、東大の勝利はフイになってしまった。

平和館に東大野球部の林田(佐藤滋)が、幻のウイニングボールを届け、同居人一同が橋場とキャッチボールをして落ち込んだ彼を励ました、、、。

            

それからは一段と戦時色が強くなる。平和館の住人のその後をみると、、、。谷川は“赤”のレッテルを張られ特高に引っ張られていき、小森は理研から湯川秀樹がいる阪大へ、友田はドイツへ留学、あの偽東大生・橋場には招集令状が、富佐子は「狭い日本に住み飽きた」とばかりに満州へ渡り、女優として売れっ子になった。

ダンスホルのピアノ弾き・早坂はダンスホールが閉鎖され失業、ヤケ酒をぐびり。4年ぶりにドイツから帰って来て友田が平和館を訪れた時には、櫛の歯のようになっていた。

ある日海軍士官の狩野が平和館で、理研の西田と話し込むシーンがあって、狩野は「戦争中にアメリカは原爆製造に間に合うか?」「日本は?、、、」。と軍事機密の質問をする。橋場と西田は戦場に征きもう二度と帰って来なかった。

昭和20年の東京大空襲で、あの若者たちの梁山泊・平和館は、B−29の爆撃で母屋は全焼、友田や武山が住んでいた二階の部屋も焼けてしまい、一階だけがかろうじて焼け残った。

戦争が終わり旧住人が、変わり果てた姿で、懐かしい平和館へ戻って来た、、、。

若き物理学者・友田晋一郎が寝起きした「平和館」で仕事も考え方もまるで違う住人との交流を喜劇仕立てにした作品だが、笑いの裏に、ひたひたと押し寄せる暗い世相と反戦が浮き彫りになる。

友田(田中壮太郎)が主役であるが、共演者が実に上手い演技をみせてくれる。忘れられない秀作だ。

なお、9月10日から10月29日まで中部、北陸、新潟、北関東地域を巡業するので詳細は、俳優座劇場まで。