演出
目次
作
出演
劇場

国立劇場   

北條秀司十三回忌追善    

大老

北條秀司  

演出

織田紘二  

吉右衛門、梅玉、魁春、段四郎、歌六、東蔵、 
友右衛門、歌昇、芝雀、松江、男女蔵、吉之丞、
ほか 

10月27日まで  

国立劇場は、今年劇作家・北條秀司の十三回忌にあたり、彼を追善して代表作の史劇「大老」を吉右衛門、梅玉を主軸に上演している。

この作品の前に井伊直弼が暗殺された前夜、直弼とお静がしっとり語り合う場面を中心にした「井伊大老」を書いているが、この「大老」は、彦根の埋木舎から桜田門外に散った直弼の波乱に富んだ生涯を描いている。なぜ、死ななければならなかったのだろう。

               

ここは三十万石を越す大大名彦根藩の城外にある埋木舎(うもれぎのや)に住む、前藩主の十四男として生まれた井伊直弼のそまつな家。

三百俵の捨て扶持で生計をたてている直弼(吉右衛門)には夫婦同然のお静(魁春)と暮らしているが、直弼自ら一丁十二文の豆腐を買いに行く、そのような貧乏暮らしだった。

そこへ仙英禅師(段四郎)が訪ねて来ると直弼は、自分の将来に悲観して仏門に入りたいと願う。だが禅師は将来活躍する相が有るからがんばれといって帰って行った。

続いて雪のな中、かねてからの知り合いで、知識、見識がある国学者の長野主膳が雪道のなか埋木舎に顔を出した。酒を酌み交わし、幕府の外国との外交のまずさ、それを批判する水戸斉昭の攘夷精神を高く評価した。

二人が話し合っているうちに彦根藩士の宇津木六之丞(東蔵)が来て、江戸にいる世継ぎの兄が急死したので、直弼が彦根藩主にならなけばならぬと告げ、直弼の身辺がにわかに忙しくなった。

大老(今の総理大臣)になった直弼を待っていたのは、黒船来航以来アメリカの開国要求、通商条約の調印が迫られていた。

江戸城にやってきたヒュースケンは、調印の期日が迫っているので、調印を結ぶかそれともアメリカと交戦するかと詰め寄る。譜代大名四家からしか選ばれない大老職の直弼は老中の「調印やむなし」の合意を取り付けたが、まだ勅許をもらっていない。

朝廷と交渉をしていた堀田備中守(段四郎)の苦心も実っていなかったのだ。そこへ攘夷派の筆頭・水戸斉昭(歌六)が血相を変えて直弼に面談。「外国船を打ち払え!」という。彼は「今の日本の実力ではとても無理だ」と言い返すが、斉昭はこのままでは、血気盛んな者が何をするか分からないぞ!と脅しながら席を立った。

                

事態は急変を告げていた。朝廷の勅許を待ち望んでいた直弼のもとにアメリカの圧力に屈して代表が調印したことを交渉係が慌ただしく告げに来た。万事休す。勅許もなしに、、、。

井伊家の上屋敷(かつて国会議事堂前にあった)に京都から長野主膳が帰って来て、攘夷派の暗躍で水戸藩に「幕府の首班になるように、、、」と前例のない勅諚が下ったという。

水戸藩は江戸へ乗り込む準備をし、直弼を殺そうとしていたので、ついに堪忍袋の緒が切れ、主膳の進言もあり幕府転覆を謀る攘夷派の検挙に動きだした。これが世に言う「安政の大獄」が始まった。

一方、倒幕の急先鋒水戸藩内も混乱していて家臣団の軋轢が激しくなった。この混乱のなか斉昭は勅諚を返上したので納まらないのが、過激派の若手家臣たち。脱藩して“天狗党”を結成江戸へ向かおうとしたが、、、。

この間、いまは側室になったお静がいる千駄ヶ谷の下屋敷では鶴姫が重体になって、何度も顔を出してくれと上屋敷の直弼のもとに督促がくるが、行かれず鶴姫は幼くして亡くなってしまった。彼の胸中はいかばかりだったのだろう。

宇安政七年三月。井伊家の下屋敷。彦根で親しかった仙英禅師が,久しぶりに訪ねてきた。直弼がまだ帰って来なかった時、屏風に書かれた和歌を読んだ禅師は、近く直弼がこの世を去るかも知れないとお静に言い。笠に「一期一会」と書き残し姿を消した。

入れ違いに直弼が帰館して、鶴姫のためにお静が飾った雛人形を直弼に見せる。直弼はともに苦労した彦根時代を偲びながら、来世まで連れ添うのはお前ひとりだとしみじみと語るのだった。

雛の宵なのに今年は季節外れの雪が降り出した。女中たちには女の祭りだから大いにはめを外して楽しめと言いながら直弼は、お静に「信じる道を貫いて、捨て石となる」と苦衷を吐露するのだった。

翌朝の三月三日。降りしきる雪のなか井伊大老一行は上屋敷と目と鼻の先の千代田城に静々と向かったが、“大老を”待っていたのは、、、。

吉衛門は「井伊大老」で何度も直弼を演じて来たが今回もスケールが大きく、それにお静との情愛が細やかに演じられ、もし直弼が討たれなかったらその後の日本はどうなったんだろう?と想いが横切った。

これに直弼の反対を押し切っても「安政の大獄」の大なたを振るった長野主膳・梅玉の説を曲げない凜とした生き様、埋木舎の時代から直弼を支えたお静・魁春のたおやかさが印象的だ。