アーサー・ミラーといえば、すぐ「セールスマンの死」や「るつぼ」を思い起こす人が多いだろう。劇団民芸は、これまでミラーの作品を多数上演してきた実績があるが、今回の「プライス」は、日本では上演したことがなかった。
この作品は、世界大恐慌でそれまで裕福な家庭で育った兄弟が、家の没落後、どう生きてきたか、また、これからどう将来に向かって生きようとしていくのか、観客の心に食い込んでくる演目で、出演者は四人だけだ。
場所はニューヨーク。部屋の中には古ぼけた家具や衣類から、ハープやフエンシングの道具、蓄音機などがうず高く置かれている。
この部屋に最初に入って来たのは制服姿のビクター(西川明)で、彼は28年間警察官を勤めそろそろ年金が貰える年になっている。
ビクターは大恐慌で破産した父親の面倒を、長い間みてきた。生活に追われ、大学も途中で断念しなければならなかった。夫の平凡なせ飢渇に飽き足らない妻・エスター(河野しずか)はそれに物足りず、いつもいらいら、ついついアルコールに手を出した。その彼女がビクターを追うように酒の臭いをさせながら現れた。
そこへビクターが呼んだ古物商・ソロモン(里居正美)が訪ねて来た。ビクターは家具類の処分をして買い上げてもらった金額を、兄のウォルター(三浦威)と折半するつもりだ。
89歳になる老古物商のソロモンがまとめて付けた金額は1100ドル。ところがこれを見ていたエスターはねちねちとビクターやソロモンに文句を言ってもっと値上げをして欲しいといい出した。
それでもなんとか交渉は成立、ソロモンが金をビクターに渡している最中、ウォルターが16年ぶりにひょっこり顔を出した。彼は、16年前に父親をビクターに押しつけ、自分は家を出て医者の道に進み、この道で成功を収め、いまでは資産家になっていたが、ビクターが何回も電話してもでようとしなかった。
人がうらやむような立派な医者になり、金持ちにもなったウォルターだが、家庭内のごたごたから妻とは離婚、一人ぽっちの寂しい生活をしていた。
さらにウォルターは売り払う家具の値段も安すぎると横やりも入れた。ビクターの洗濯物をクリーニング屋へとりに行っていたエスターも帰って来て彼に同調、一時は交渉が頓挫しそうにもなる。
かつてビクターが、兄に学費の500ドルを借りにいけば、彼はにべもなく断った。だから進学をあきらめたなど兄弟の過去が浮き彫りになり、溝は深まるばかり。
ウォルターは和解を求めにやって来たのだろう。ビクターも定年が近いから「自分のもとで別の仕事を世話をするから働いてはどうか」と提案したが、兄に向かって答えは「あんたを信頼していない!」。
二人がこれまでの人生で払ってきた“代償”はなんだったのだろう。それによって“得た”ものは、、、。
「兄弟は他人の始まり」というが、周りを見回してもこのようなもつれや確執、さらに殺人までと続くことが多数ありますね。この作品には、社会の動き(この場合、大恐慌)が、家族関係や個人にどのように影響を与えたか、、、を言っているだろう。
民芸のベテラン俳優が、がっしりと取り組んだ骨太のドラマだ。