劇団四季が、先の大戦の悲劇をミュージカルとして取り上げた「昭和の歴史三部作」の作品。一人の学生が在学中に軍人としてインドネシアへ征き、BC級戦犯として死刑になるまでを描いた物語だ。
B級は「通例の戦争犯罪」、C級は「人道に対する罪」で戦犯になった軍人、軍属を指し、この青年はC級戦犯として死刑台を登った。
太平洋戦争が勃発する寸前、場所は京都。保科勲(阿久津陽一郎)は京大法学部の学生だった。彼はインドネシアからの留学生・リナ(秋夢子)と恋い仲だ。当時インドネシアはオランダの植民地で、その圧政に民衆は苦しんでいた。
祖国の状勢が風雲急を告げてきたので、リナは帰国することになり、姉の春子(都築香弥子)、義兄で宇治の連隊から帰宅した原田大尉(鈴木周)、それに京大の教授を投げ捨てたおじの岡野教授(維田修二)らと送別の宴を開いた。
間もなく日本は英、米、蘭との全面戦争へ突入、勲はリナの国へ学生でなく、陸軍少尉として出征していった。開戦して日本軍は、圧倒的強さで各国を席巻、インドネシアではオランダ軍を破り、独立運動の突破口を開いた。
勲はオランダ兵をかばった時、自軍に撃たれ負傷、リナの家で彼女に介抱される。再会と植民地からの開放で、喜びでいっぱいの火祭りの宵、二人はしっかり抱き合い、あの南の空に輝く「南十字星」をいつまでも見上げるのだった。
最初は島村中将(田代隆秀)の融和な軍政は、彼の地で喜んで受け入れられた。日本軍は小学校の建設から軍事教練まで行なった。
だが、戦況が悪化するにつれ、日本軍は石油の調達、米の供出、現地人の強制労働が目立ちだし、開放運動のリーダー・ニルワン・(小出敏英/藤川和彦)らは「これでは日本軍はオランダのやり方と少しも変わらないではないか、、、」と不信感をつのらせる。
また、オランダ人の捕虜たちは、劣悪な収容所の待遇、たとえば「日本は我々に木の根を食べさせる、、、」と勲に怒りをぶち撒ける。勲が「日本の軍人と同じものだ」と言っても聞き入れない。この“木の根っこ”が、将来重要な意味を持つ。
木の根は、じつはゴボウのことで、これを食べるのは、日本と朝鮮の民族しか食べないので誤解をまねいた。そういえばフィリピンでもそのよう事件もあって後に影響を与えた。
やがて終戦。勲の義兄・原田大尉も現地に征っていたが、敗戦で武器、弾薬を連合軍に渡さねばならないとき、彼はインドネシア開放軍に参加、武器も連合軍を欺いて、インドネシア軍に供出してしまった。
勲は法廷に引き出される。捕虜だったオランダ人たちは「おまえは、私たちに木の根っこや糊(じつはオカユだったが)を食べさせた!」彼が良かれと思ってやったことが全部裏目に出、さらに武器をインドネシア軍に譲り渡した義兄の名前も言わない。
法廷に来ていたリナが必死で彼の無罪を訴えるが、ついに勲に「絞首刑」の判決が下された、、、。
勲の処刑の時間が迫り、リナは刑務所へ飛込んでくる。面会はとても無理だが、刑務官は勲がかばったオランダ人のウインクラー(吉賀陶馬ワイス)は、規則を破ってリナを勲に逢わす。
だが、二人の間には冷たい鉄格子、話すことは山ほどあるのにタイム・アップ。指切りげんまんをするのが精一杯だった。
刑の執行時間が来た。勲はすっくと立ち上がり、十三階段を、、、。空には満天下の星、星、ひときわ目立つ“南十字星”が、、、。
BC級戦犯で1000人ほどの軍人、軍属が処刑された。ほとんどの人が言われなき罪をかぶって旅立って逝ったのだ。
戦争の悲劇を二度と繰り返してならないことをこのミュージカル「南十字星」は、伝えている。
劇中でのどかなインドネシアの農村風景、火祭りの宵に繰り広げられる音楽や踊り。リナ役の秋夢子が歌う「ブンガワソロ」の名曲が忘れられない。