京都の島原は、江戸時代から続く三大遊郭で有名だが、ここは空襲にも遭わなかったから昔の風情がたっぷり残っている。
この前の戦争の荒波を乗り越えた島原だったが、戦後間もなくの島原はどうなっていたのだろう?そしてここに住んでいる人たちは?
北條秀司の名作を、水谷八重子、波乃久里子、安井昌二らが出演する新派公演、「太夫(こったい)さん」が三越劇場で上演されている。島原では太夫のことを「こったいさん」と呼ぶ。
戦争が終わって3年後の昭和23年の秋。島原遊郭の宝永楼は、伝統のある妓楼で大勢の太夫が働いている。仲居頭のお初(英太郎)やお千代(小山典子)を始め、太夫も飯炊きのお倉(小泉まち子)と一緒になって掃除や朝食の支度をしていた。
と、そこへ大声で労働歌の合唱が聞こえてきた。宝永楼の裏にあるガス会社がストライキを始めたのだ。九重太夫(石原舞子)や小車太夫(瀬戸摩純)がビックリしていると、美吉野太夫(伊藤みどり)も駈け込んできてわいのわいの。
お職の深雪太夫(波乃久里子)も外座敷から帰り、遅い朝食を取りだした。太夫だけになった時、玉袖太夫(矢野淳子)が、改まって昨夜の客・岩上(立松昭二)の話をするには、、、。
「自分たちを縛っている売春制度を壊さなければならない−」とオクターブを上げる。初音太夫(山吹恭子)も同調するが、年かさの美吉野は楼主に恩義があって同調しない。
こんな話が出ているとは露知らず、女将のおえい(水谷八重子)が出て来て、家事のことで細々注意しているところへ輪違屋の隠居・善助(安井昌二)が顔を出す。
善助におえいが島原の存続で愚痴をこぼして最中、太夫全員が出て来て玉袖が代表で「これを読んでくれっ」と一枚の紙をおえいに突きつけた。
それはおえいに対する要求書で、いまだかってこんなことはなかったことでびっくり、ご機嫌も斜めになってしまった。そこへ安吉(鈴木章生)という男が、「妹のおきみ(鴫原桂)を連れてきた。太夫にしてくれ、それに金がないので前借りに2万円欲しい」というので小切手を渡してやった。
ところが安吉が帰ったあとでおきみは、おえいに「あのひとは兄ではなく夫で、ここは産婆ではないのか?」といいだすので、おえいは詐欺に引っかかったとまたまた愕然とする。
亭主に騙され子供まで産んだおきみは、おえいの厚意で喜美太夫の名前で太夫として置いてもらうことになった。ただ喜美太夫は、小さい頃脳膜炎を患ったので、物覚えが悪く、おえいが三味線を君美太夫に教えようとするものの、これがダメ。ついにおえいは匙を投げてしまう。
ある日のことけたたましいサイレンの音がするのでわけを聞くとかつておえいに要求書を突きつけた玉袖が、自由廃業して京都を飛出したが、またこの土地に舞い戻ってきて、客に無理心中を迫られ刺されたのだ。
翌年の春。島原では戦後初めての太夫道中が、再開されることになった。廓中は喜びでいっぱい。宝永楼も家の中はひっくり返るよう。その支度にてんわやんわだ。
おえいは嬉しくて嬉しくてなにも手につかない。口を挟もうとしてもかえって家の者に、邪魔者扱いにされてしまうほどだ。そこへ一杯気分の善助が、息を切らして飛込んできた。
それは「角屋(すみや)と宝永楼が、文部省から国宝に指定された」というビッグニュースだ。おえいは、盆と正月が一緒にやって来たので頭はくらくら。
喜びはまだ続く。幇間のよね七(田口守)が、神戸の大日洋行の支配人・黒田(柳田豊)を連れてきた。「うちの社長が、喜美太夫を是非本妻に迎えたい」と言う話だ。おえいは狐につままれたように目をパチクリ。
続いてその社長が現れ、ばったりおえいと目をあわせると「あっ、あの時の二万円!」。そうです。おきみの兄の触れ込みで、おえいから二万円を騙し取ったあの安吉だった、、、。
さてそれからは、、、。
おえい役の水谷八重子は初役だが、まさにこの役にぴったりだ。善助はおえいとは昔初恋の仲だったが、先日二人で日吉神社の参詣で、その時払った勘定を合わせに宝永楼に来るが、安井の色恋を超えた演技が好演だ。
またすこしおつむが弱いが、一生懸命一人前の太夫になろうとけなげさをみせる喜美太夫役の鴫原桂もしっかりしている。
新派の俳優陣の演技のバランスがとれたこの作品は、観客の心にきっと“癒し”を与えてくれるに違いない。