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孤独から一番遠い場所

ステージ円     

鄭義信     

森新太郎   

山崎健二、石田登星、中條佐栄子、渡辺穰、  
朴璐美、大窪晶、吉澤宙彦、石原由宇

11月9日まで  

03-5828-0654   

 ずぶ濡れの 左 石田登星 右 朴璐美  

撮影:宮内勝 (C)

演劇集団円は、他の新宿や渋谷に拠点を持つ劇団とちょっと違い、メトロ銀座線田原町近くのビルにあって、ステージ円公演はよくここの五階のフロアで上演する。

今回の公演を観に行くと前列の客が、ビニールを肩から下げている。舞台は一面に砂を敷き詰め、水も張ってある。何かあっと驚かす趣向を考えての事だろうと思って着席した。

              

場所は九州の建築会社の支社。台風の襲来で一杯飲んでいた二人の社員が自宅に帰れず自分のビルに逃げ込んできた。手抜き工事の自社ビルだから、水が遠慮無く部屋に侵入してくる。

二人は素足だ。一人は年かさの鈴木(山崎健二)、若い方は田中(大窪晶)。水も引かず、帰ることも出来ないものだから水浸しの部屋で持久戦になった。世間話をしているうちに鈴木は40年前の出来事をしゃべり出した。

ここは九州でも西の外れにある鈴木の生家の近くの海辺。終戦末期。空には日本機は飛ばず、大型爆撃機B-29や艦載機Pー51が大空を蹂躙している。浜には1隻の小舟が引き揚げている。

こんな辺鄙な所へ、夏生(石田登星)、春生(吉澤宙彦)の兄弟がやって来た。彼らの母国は朝鮮。強制的に内地に引っ張られ、炭坑で働かされいたが、ひどい仕打ちに耐えかね脱走し、船を見つけて海を渡ろうしたのだ。

鈴木の実家は小さな商売をしていて長女・千砂子(中條佐栄子)は目が不自由、次女・美砂子(朴璐美)と復員してきた夫・猛(渡辺穣)と少年時代の鈴木<謙太>(石原由宙)がいるが、美砂子の亭主は戦争で負傷、いつも松葉杖をついている。

猛は身体にハンディキャップを持つせいか、嫉妬深く美砂子を追いかけ回し、自分が亭主であることで美砂子を押さえつけようとしている。

美砂子はねちねちくっつき廻る夫にうんざりして逃げ出したいと思っても目が見えない姉を置きざることが出来ない。それに弟の軍国少年の健太もいることだしなおさらだ。

そんな時炭坑を脱出してきた夏生、春生に出会う。こんな思い出とそれから40年経った現実とが、行ったり来たりする。この間猛と美砂子はケンカをそて水のなかで転げ回り、ずぶ濡れ。

夏生が現れたことで、美砂子は家を捨てる覚悟が出来「明日ここを離れるから一緒に行こう」と言う誘いに乗ることになったが、、、。美砂子を連れ出そうとする夏生、そうはさせないと不自由の身体で、引き戻そうとする猛。生死を賭けた争いが、、、。

折からB-29の猛爆が始まり、この海岸辺りも焦土となり生き残ったのは、若き日の鈴木だけだった。そのような忌まわしい過去の出来事が走馬燈のように現れる。

まだビルに侵入してきた泥水は引かない,,,。

着席したと時の予感どうり、舞台に近い客は水がバシャンバシャン。出演者のほとんどがずぶ濡れ、“愛”としがらみの葛藤を見せる。

特に美砂子・朴璐美。芥川の「蜘蛛の糸」ではないが、一本の糸にしがみつき這い上がろうと身も心ももだえる姿に、かたずを呑むおもいだった。