小説「蟹工船」といえば昭和4年に発表された小林多喜二の代表作で、その後小林は官憲の拷問に遭い亡くなった。現在は漫画にもなるほど注目されているが、当時北の海で働いていた乗組員は、どんな環境、情況で働かされていたのだろう。
劇団俳優座は、創立65周年記念公演の第2弾として地獄へ行った男たちの物語「蟹工船」(脚本・演出:安川修一)の群衆劇を劇団のパワーを結集、上演している。それでは皆さんと一緒に蟹工船に乗り込んでみよう。
カニの漁期は、4、5、6月の3ヶ月、この期間しかカニは捕れない。交尾のために浅瀬に来るが、この期間をはずすと深海へ戻ってしまうのだ。これを狙ってカニ漁が大正時代以降盛んになった。
漁期になって函館に停泊している蟹工船・博光丸には百姓・坑夫・土方・なかには学生まで季節労働者として雇い入れられた。
この博光丸は日露戦争後払い下げられた老朽母船で三千トン。ソ連領海まで侵犯してカニを捕り、加工してカニ缶にするのだ。
乗り込んだ労働者は蟹工船のことは何も知らず初めての者、食い詰め者、ある者は女のため、、、といろいろな人生のしがらみを背負った男たちで、名前すら船内では呼ばれず劣悪な船室で、全ての人間としての権利を剥奪され、二十四時間数ヶ月寝起きをするのだ。
そして会社の利益と国策に翻弄される運命が北の海で待ち構えていた。
労働者は名前がないが、名前があるのは会社から派遣された血も涙もない全ての権限を握っている監督・浅川(川井康弘)、雑夫長(田中茂弘)、会社重役(河野正明)、船長(中寛三)、それに北洋の守りに就いている駆逐艦・大尉(矢野和朗)らだ。彼らは出港に先立ち乾杯をしていたが、誰一人労働者の事を考えてやる者はいなかった、、、。
出港してカムチャッカへ向かった博光丸だが、北の漁場は低気圧の墓場だ。激浪に翻弄された僚船から悲痛なSOSが送られ、助けを求めてきても浅川はこれを無視、見殺しにしてしまった。
さらに浅川は成績を上げるために過酷な残業を強いる。これに耐えられず死者が相次いで出るようになって待遇改善を要求してもピストルを発射して威嚇する。
いよいよストライキを起こそうとするが、浅川は駆逐艦に打電、鎮圧に乗り出してもらう。海軍も労働者の味方ではなく、会社にべったりなのだ。
だが、“死”を決意した乗船している労働者全員のゼネストが始った、、、。
波浪が船体にぶつかり、蟹工船が沈没するかのようにきしむ音。糞壺と呼ばれ、臭気が漂ってくるような船室、ノミやシラミがたかる汚れたシャツを着ている男、脚気で身体の自由がきかない絶望的な労働者、、、と舞台はまさにかつての劣悪な蟹工船内を克明にクローズアップする。
身の毛がよだつように感じられかもしれないが、これを上回る男優陣の迫力にはかたずをのむおもいだ。結束した群像劇を上演した劇団俳優座65周年記念公演は、十分期待に応えてくれるものだ。ぜひ劇場へ足を運んでもらいたい。