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ウオーキング・スタッフプロデュース  

脚色

中村吉藏  

和田憲明

加納幸和、中川安奈、鈴木省吾、津田健次郎、瀬戸将哉、小田豊  

5月25日まで  

公演中 劇場ロビー 03-3354-6497  

左から中川安奈、鈴木省吾、加納幸和、津田健次郎  

島根県、津和野出身の劇作家・中村吉藏(日本の近代演劇に貢献した)の作品。刊行されたのは大正四年だが、その中身は少しも古くなく、いまでも人の心の奥底に潜む“嫉妬”や“社会的不満”を浮き彫りにした作品だ。



舞台は片田舎のいまでは見られない床屋のセットが組まれている。理髪店の主人・木村為吉(加納幸和)は、内縁の女房・お鹿(中川安奈)と親から受け継いだ店を営んでいた。

客はいつもの顔ぶれ。商売だから当たり前だが、毎日そんな客の髪に鋏を入れ、“剃刀”で顔を剃る。だんだん嫌気が差してきていた。

だが彼とは反対に女房のお鹿は美人で元気がいい。東京で酌婦をしていたから客扱いも上手く、鼻の下を長くした客にも思い入れのサービスをするので、客もまんざらではないが、そんな客とのやりとりを横で見ている為吉は面白くない。

剃刀を握りながら、ふと自嘲ぎみに「俺は毎日人の喉を剃っているから、刃先をグイと突いたら人間の息の音を止めてしまうのだ、、、」と考えていたとき村役場の書記をしている野口早太(津田健次郎)がやって来る。

続いて恩師でもある小学校長の佐藤敬一(小田豊)、何も働かなくても金が入ってくる伊勢屋の息子・勘七(瀬戸将哉)が客としてやって来たが、為吉は仕事に身が入らず、客につっかかる始末。お鹿はハラハラしながら取りなしにおおわらわだが、どうしても為吉の様子が変だ。

そんな時、野口や佐藤が岡田の出世ぶりを我が事のようにしゃべりだした。岡田とは代議士に出世して、末は大臣になるだろうと噂される岡田秀作(鈴木省吾)のことだ。

為吉と岡田は小学校の同級生で小学生時代、為吉と秀作は仲が良く、成績は為吉が一番、秀作が二番だった。岡田は生まれ故郷でもあり、自分の選挙地盤でもあるここへ2、3日前から帰って来ていたのだ。

為吉は家が貧乏だっから床屋を継がされ、出世が出来なかった。それに引き替え秀作は、金持ちの息子だから上級の学校にもいけ、出世も出来た。「金さえあれば才能屋能力なんかどうでもいいのか、、、」と社会的な矛盾を考えながら仕事をするものだから野口の耳を切ってしまう。



タイミングがまずいところへシルクハットを抱え、ばりっとした背広に金時計姿。飛ぶ鳥を落とすような勢いの岡田秀作が、顔を剃りに入ってきた。

びっくりした為吉、がらっと愛想が良くなったお鹿。秀作は「昔の友人に顔を剃ってもらうのはどうかとおもったが、2、3日剃ってないからやって来た」とすこぶる上機嫌。

お鹿は秀作に「自宅のまかないでもいいから私の面倒をみてくれない?}と擦り寄るとそれを見ていた為吉は、劣等感と嫉妬心で身体中がめらめら燃え上がってきた。

椅子に座った秀作はそんなことには考えも及ばない。石けんを顔中を塗ってもらいトロトロと居眠りをしている最中、研いでピカピカになった和剃刀を手に握った為吉は、、、。

いまでも周りを見渡せば、このようなことは沢山ある。これが殺人事件になったら、、、。昔も今も少しも変わっていない。人間の嫉妬心や劣等感はその人にしか分からない。

うだつの上がらない床屋の為吉役の加納幸和、これ見よがしに郷里に錦を飾る秀作役の鈴木省吾が好対照に演じられ、深みのある作品になっている。また、酌婦あがりのお鹿・中川安奈が味のある演技を見せている。