

国立劇場
「象引」
「十返りの松」
「ヲ競艶仲町」
いきじくらべはでななかちょう
芝翫、團十郎、三津五郎、福助、橋之助、
團蔵、秀調、市蔵、亀寿、亀三郎、権十郎、ほか
1月27日まで
03-3265-7411

◆ 「象引」
團十郎が病も癒え半年ぶりに元気でに舞台に復帰した。「象引」は團十郎のお家芸で、国立劇場では27年ぶりの上演だ。
「象引」は上演回数が少ないので観るには今回は良いチャンスだろう。
武蔵の国(いまの埼玉、東京、神奈川にまたがる)で関東守護職をしている豊島家は、嫡子葵丸(巳之助)の家督相続を許す綸旨(天皇の意を受けた蔵人=天皇の秘書役=が発行する命令書)を携えた勅使を待っていた。だがその時に必要な八雲の御鏡は怪しい獣に奪われてしまっていた。その獣は逃げ出した象らしい。
そこへ勅使大伴褐(かち)麿(三津五郎)一行が到着した。出迎えるのは豊島家の後室・愛宕の前(家橘)と家臣たち。褐麿は勅定(勅命)を突きつけ、守護職の役目なのに猛象を野放ししているのはけしからん。
自分が象を退治するから豊島家の息女・弥生姫(福助)を輿入れさせろと無理難題。弥生姫はやむなく輿入れを承知するしかなかった。
その時、花道から「待て−、待てー」と大声が響く。声の主は隈取りをし、赤っ面の箕田源二猛(團十郎)という関東一の荒武者で褐麿の悪巧みから姫を救おうと現れた。そして象を退治した方に嫁ぐことが決まった。
そんな折、生津我善坊(橋之助)が、猛象が暴れていると告げに来た。そこで猛と褐麿は、象退治に出かけた。一人になった弥生姫は家のため剃髪して一心に祈った。
奥庭では猛と褐麿が、象を引き合っていたが八雲の御鏡が出て来て象はその威徳でおとなしくなった。御鏡を盗み象を操っていた褐麿の謀略も泡と消えた。
なおも猛と褐麿が争おうとすると葵丸が仲裁に入り、あわや豊島家は、、、というところまでいったが、葵丸の家督相続も決まり猛に豊島家の後見人と象が与えられた。
象が日本に渡来したのは足利、信長、吉宗の時代に三回あるが、長崎から江戸まで二ヶ月以上かかった。当時の人は大きな象を見て、さぞびっくりしただろう。
舞台で猛と褐麿が象を引き合う姿に、庶民は夢を託したのかも知れない。團十郎の歌舞伎十八番をたっぷり見せてもらった。
◆「十返りの松」 天皇陛下御即位二十年記念
即位二十年を記念して芝翫の振り付け。松は昔から冬でも青々しているので、縁起の良い木と尊ばれてきた。また松は百年に一度花が咲き、それを十回繰り返すと実つけるとも言われてきた。
大きな家の庭に植えられた松が「十返り」を迎えた新年に、祝宴が開かれていた。梅の精(福助)や竹の精(橋之助)舞ったあと松の童(国生)、(宗生)、(宣生)も踊り、若松の精、姫小松の精も勢揃いする中、当主の松の精(芝翫)が現れ、松のめでたさを踊りで表現。
松が歳を重ねても元気なように、今の御代がいつまでも長く続きますようにと祈念するのだった。成駒屋が三代うち揃って出演するのも初春公演にふさわしいだろう。
◆「ヲ競艶仲町(いきじくらべはでななかちょう)」
みなさんご存じの「東海道四谷怪談」や「桜姫東文章」を書いた四世鶴屋南北の作だが、初演以降上演された事がなかったのを今回国立劇場が復活させた。その努力に拍手をおくりたい。
物語のすじがいろいろ入り組んでいるので、ここではヒーロー、ヒロインたち主軸なる三人、三津五郎、橋之助、福助がからむので覚えていてもらいたい。
場所は永代橋西側の賑やかな往来。下総八幡の郷士・南方与兵衛(三津五郎)の中間・才助(三津之助)は、説法をしていた勧化坊主が善光寺に鐘の緒を奉納するのを聞いて、隣家の娘・お早から預かった願いの写経と守り袋を括りつけてその場を立ち去った。この守り袋が後で重要になってくる、、、。
そこへ深川仲町の遊女・都(福助)とお照(新悟)らがやって来る。後を追ってきたお関(芝喜松)が、妹の都を呼び止める。都は姉のお関に、父親の面倒をみてもらっているので、姉に弱味を握られている。
欲張りなお関は、都を千葉家家中の平岡郷左衛門(團蔵)に、身請けさせ金を懐に入れようとせっついて来たのだ。都は姉に往来のこともあり、小銭をにぎらせその場から姉を立ち去らせた。
少しの時間をおいてお照たちが、米問屋丸屋跡取りだが、いまは勘当になった長吉(巳之助)を連れて戻ってくる。都はみんなで深川へ帰ろうとしていると郷左衛門が丸屋の番頭・権九郎(市蔵)と現れた。
長吉とお照にいやがらせをする権九郎、また郷左衛門はいやがる都を強引に金の力で我がものにしょうとするが、深川の遊女の意地を見せ、つっぱねる。
そんなところへ丸屋出入りの鳶頭・与五郎(橋之助)が割って入った。与五郎は長吉の身元引受人で、都と与五郎はこどもまでもうけた間柄だった。
長吉と女たちを取られた郷左衛門は悔しがるが、権九郎は懐から取り出したものは、千葉家秘蔵の香炉・瑠璃雀。郷左衛門の悪巧みで権九郎が盗みだしたものだが、長吉は盗まれた落ち度から勘当になっていたのだ。
香炉を金に替え郷左衛門は都を、権九郎はお照を身請けしようと悪の花を開かせたのだった。悪事はとどめを知らない。この二人は、さきほどの才助が括りつけた守り袋を見つけた。
丸屋主人・仁衛門右衛門(権十郎)の筆で書かれた「迷子、はや」で、幼い頃行方不明になった娘・お早を想ってのもの。郷左衛門とお早とは許嫁の間柄だったのだ。
さらに悪智恵を吹き込んだのはお関。都は腹違いの妹で、幼い時のことは都は知らないから、守り袋を都に渡して丸屋の娘にすれば、郷左衛門は晴れて都と一緒になれると吹き込んだ、、、。
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深川仲町吾妻屋の座敷。都に首ったけの与兵衛に「金で自由にはならない」と言うと与兵衛は、実は、三年前に都を千葉家の藩主に見初めたことを話すと、自分が仲人になるといいだし、腕に「都命」と彫られてしまった。この話が藩中に広まり、引くに引けなくなった。三日でいいから都に女房になってもらいたいという与兵衛の話だ。
吾妻屋に来ていた与五郎は、都に与兵衛の男を立ててやれと言う。都は与五郎との間にこどもが生まれたので、遊女でありながら、他の男に肌を触れさせていなかったが、断ることもできず命を絶とうとした。
そして与兵衛は刀で自分の彫りものを消し、三人の侠気が通じ合った。
米問屋丸屋では、十五年ぶりにお早が帰って来たので大喜び。お早として連れて来られたのは都で、すぐに結納するとせかれた。花婿としてやってきたのはなんと郷左衛門なので都はびっくり。そんな、、、。
それから与五郎は都を丸屋から“拉致”、長吉に香炉を取り戻す約束をして、与兵衛が住む下総八幡村へ急いで向かった。一方与兵衛の家では、妹のお早(福助)は兄の与兵衛が好きだったが、本当の妹でないことが分かり、ふたりは祝言することになった。
また与五郎の懐から守り袋が出てきたところからお早こそ丸屋の実の娘であることが判明、郷左衛門を追い詰めた与五郎はお家の宝、瑠璃雀の香炉を取り返した、、、。
南北の込み入ったすじ立て、意表を突いた場面の転換、見ている方はあれよあれよだが、江戸時代の世話物の醍醐味を、芸達者な三津五郎、橋之助、福助が熱演、初春歌舞伎を楽しんでもらいたい。