

国立劇場
江戸川乱歩
―明智小五郎と人間豹―
岩豪友樹子
九代琴松
幸四郎、染五郎、高麗蔵、錦吾、春猿、鐵之助、ほか
11月26日まで
03-3265-7411(代)

歌舞伎は江戸時代から時代もの、世話ものを問わず、常に客に楽しんでもらえるものを作者や役者が工夫して舞台に掛けてきた。だから庶民の根強い支持、支援で長い間続いてきたのだろう。
とは言っても時代の変化も激しい。安穏としてよく上演される狂言ばかりでいいのか?そんな思いの者は私一人ではないはずだ。あれこれ考えていたら今月国立劇場で、大正、昭和にかけて推理、探偵小説を確立した江戸川乱歩の名作「人間豹」(1934〜35年に発表された)が上演された。
乱歩の作品は歌舞伎の世界に登場したのは初めてで、伝統を重んじる国立劇場がよく上演に踏み切ったとビックリした。「人間豹」を歌舞伎の世界に移し、舞台化するアイディアは染五郎だそうだ。
名探偵明智小五郎は、幕末の隠密廻り同心として登場するという。どんな芝居になるのだろうと興味深々で劇場に足を運んだ。
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時は幕末、大獄や大地震があった安政の時代、上野の不忍池にある出合茶屋(男女が逢瀬を楽しむ貸座敷)。小普請組(下級武士)の神谷芳之助(染五郎)が、商家の娘・お甲(春猿)と逢い引きのためにやって来た。
お甲を待っていると夜鷹そば屋が通りかかったのでそばを注文、色恋いの話をしているとそば屋のおやじは「どんな女でも百夜目の思いを遂げる」と押し殺した声で呟き、「その百夜目が今夜だ!」と言う。
二人は親の許さない仲なので、人目を忍んで逢うしかなかった。やっと逢えたのに神谷家の下人・伊助(錦弥)がやって来て芳之助が芝居道楽で借金をかさねそれが発覚、お上から咎めの沙汰があったから急いで屋敷に帰ってくれというものだった。
やむをえない事情で帰る芳之助を見送るお甲、それからすぐに、そば屋(染五郎)が恐ろしい声でお甲に「今夜が丁度百日目だぜ!」。驚いたお甲は逃げだそうとするとそば屋がお甲の肩に食らいついた。鋭い鈎爪でお甲をずたずたに、、、。前から狙われていたのだった。
それから一年が過ぎた。江戸橋広小路の支度小屋。お甲が殺されてから芳之助は鼓の師匠となり、女役者で美人のお蘭(春猿)と恋い仲になっていた。
お蘭の舞うウズメ舞は評判が高く、将軍もお忍びで観に来るほどだ。ただ、お蘭に毎日生きた鯉を届けてくる柳橋の船宿の主人のことが気にかかる。なぜ、鯉を毎日?
今日は山王祭りの日とあっていつもよりも華やいだ舞台で踊り子は奇抜な衣裳で舞い、芳之助の鼓でお蘭を舞い出した。ところが良い場面になった時、大きな黒揚羽が現れ、お蘭を包み込んで上空へ飛ぶと、猛獣が吼える声とお蘭の絶叫が場内に響き、血まみれの彼女が落ちて来た、、、。
隅田川の河岸にある居酒屋に、お蘭を殺されやけっぱちになり泥酔している芳之助は、居合わせた同心・小林新八(高麗蔵)と目明かし・恒吉(錦吾)に、二人の女を失った悔しさ、一年前のそば屋のおやじの話をぶちまけていると奥で一人で飲んでいる男が話し掛けて来た。
その男は隠密廻り同心(町奉行直轄で変装をして市中の探索にあたる)明智小五郎(幸四郎)であった。
二つの事件を聞いた小五郎は、犯人は同じ者だと確信する。というのは目を付けられてから百日目に殺されたことと二人とも肩に鋭い咬まれた傷があったからで、人間を食い殺す「人間豹」の仕業とにらんだ。
一方、侍だったのに、二人の恋人を殺された芳之助は自責にかられながら、居酒屋を後にする。
そこへ老尼の百御前(鐵之助)が現れ、雑煮を馳走になり去っていったが、足下には小五郎に宛てた文が落ちていた。文面を読むと「この一件から手を引け、さもないと悔いても知らないぞ・・・」恩田乱学と書いてある。
まさしく人間豹、恩田乱学だ。彼は長い間虐げられてきた民衆の怨念を一身に受け生きてきた人物で、何をするか解らない。江戸の治安、安寧を守る小五郎はきっぱり挑戦状を受けて立つ決心をする。
小五郎は、百御前を追おうと店を出ると俄の雷雨、足止めを食らった小五郎に笠を差し出した居酒屋の亭主こそ恩田乱学(染五郎)だった。
江戸市中に身を隠している小五郎は、菊人形師に変装して団子坂に住んでいる。小五郎は、神経をやられた芳之助を引き取って住まわせていた。
彼は小五郎の女房・お文(春猿)を死んだお蘭と思い込んでいる。今日はお文の前で芳之助が踊りを披露した。お文の甥・林太郎(錦政)、菊師・徳造(幸太郎)、その孫・お鈴も踊りを楽しんでいた。
徳造とお鈴が帰った後、お鈴が何者かにさらわれたと小五郎の所へ急信があり、恩田の仕業と考えた小五郎は、お文を笠森稲荷に囮として行かせた。いよいよ人間豹と小五郎の対決になる。
お文を乗せた駕籠にはお文に似せた菊人形で、まんまと引っかかったと思いきや 乞食の妨害にあい捕り逃がす。一方、一人残ったお文は百御前に襲われ鋭い爪を肩に食い込まされ連れ去られてしまった。
お文が連れ去られたのは、浅草奥山にある洞窟。ここは恩田の隠れ家で百御前は恩田の母親だった。また、芳之助は恩田に姿を変えていた。
ここは浅草の見世物小屋。客の前の檻には怯える女豹、これを襲う雄の黒豹。百御前が鞭を振り回すと黒豹が女豹に飛びかかり、首に噛みついた。その時小五郎が飛込んで来た。
女豹の皮の下から白い肌が表れ、女豹はお文だった。お文が首を食いちぎらる寸前、小五郎の短筒が火を吹き、黒豹を庇おうとした百御前は、銃弾に倒れ、その隙にお文は助け出されたが、黒豹こと恩田は忽然と消え去ってしまった。
さらに小五郎は小屋の裏手に恩田を追っていったが、恩田は大凧に乗って空中に舞い揚がった、、、。
江戸川乱歩の傑作を、時代を江戸時代に置き換え、明智小五郎(幸四郎)に活躍させる、、、。そして恩田乱学、神谷芳之助の二役に挑む染五郎が素晴らしい。アイディアを実行に移す意気込みを高く買いたい。
また高麗屋一門の芝居は初出演の春猿は適役で、この作品で大きく花を咲かせた。これからもどんどん出演して欲しい。